取材 : 2009年6月
クリエイティブ業界で活躍している方に、現場の話をお伺いする人気の連載企画。第5回目となる今回は、アニメーションやゲームの絵コンテを作成する「絵コンテクリエイター」。打ち合わせ中でも他人の頭の中にイメージされるキャラクターやシーンなどを、その場ですらすらと描いていくという牧野行洋さん。この道20年以上の大ベテランである牧野さんに、クリエイティブ業界で働く魅力や生き残るコツをお伺いした。

牧野さんは、いろんな業界で絵コンテを描いていらっしゃるんですね。
そうですね。アニメーションやゲームなどの絵コンテを描いています。監督やディレクターでも絵コンテを描く人がいますが、私の場合は絵コンテを専門に担当していて、言わば「絵描き」ですね。
以前はアニメーションのお仕事がメインだったそうですが、そもそも、この業界を目指したきっかけを教えてください。
高校生の頃にちょうど「宇宙戦艦ヤマト」が流行って、アニメブームがきたんです。当時は、アニメやマンガを見る人はどうしようもないと言われていて、なかなか見る機会がありませんでした。それでもどうしても見たくて、それなら仕事にしようと。
よほどお好きだったんですね! 絵の描き方はどこで学ばれたんでしょうか?
まずは専門学校に入ったのですが、授業内容はそれほど仕事に有効なものではありませんでした。結局1年で辞めて、現場で働いているプロの人に付いたんです。そこで、半年くらい埼玉県の奥にある乗馬場へ通いました。馬が走っているのをひたすら描くんです。それを根気よく指導してもらいました。動いているものを目で捉えて、紙の上に描くことができないとだめなんだと。
なるほど。絵を描く技術と同時に観察力も必要なんですね。
私の場合、アニメーションの業界に入ってすぐに「自然現象」を描くことを勉強したんです。火が燃えたり、岩が崩れたり、水が流れたり・・・。「自然現象」は、それこそ観察力が必要で表現が難しいんですよ。ほとんどの人が面倒くさいと嫌がって、やりたがりませんから、それが描けることで重宝されました。

絵を描くのに何かソフトを使っていらっしゃいますか?
全て手書きです。ソフトも何度か覚えようと思いましたが、私の場合は打ち合わせしつつ、その場で描いていくので手の方が早いんですよ。
その場でですか? 人の頭の中のイメージを絵にするのは、コミュニケーション能力も求められますね。
長年この仕事をやっていると、大体その人の頭の中のイメージが分かってくるんです。ある程度の共通言語があるんですよ。その場でラフでもいいから絵を描いてみると、文字だけで指示されたものを絵にして見せるよりも、イメージのずれが少ないんです。実は、これもこの業界で生き残るためのコツなんです。
生き残るためのコツ・・・。
よく若い人たちにも言うんですが、人がやっていない隙間を掴むというか、自分にしかできない特技を作った方がいいんです。アニメーション業界でビジネスとして成り立っている人はそうはいません。宮崎駿さんなどは本当に数少ない例です。絵描きで食べていくのは難しいですからね。私がアニメーションだけでなくゲームの仕事もしているのはそういう理由もあります。
アニメーションの仕事だけでは厳しいということですか?
よくこの業界で言われることですが、割に合わない仕事も多いんです。その点、ゲームの仕事はアニメの仕事とはちょっと違った面白みがあります。お金も少しはいいですから。
なるほど。アニメーションとゲーム、異なる二つのメディアでのお仕事でフラストレーションがたまることはありませんか?
しょっちゅうありますが、絵コンテの作り方は基本的に同じですし、ゲームの仕事って面白いんです。スケジュールがかなり厳しい時もありますが、それさえなければこんなにいい仕事はないなって思います(笑)。
今現在はどのくらいのペースでお仕事をされていますか?
ひとつのプロジェクトが数ヶ月に渡るものなので、年間でゲームが数本、アニメーションが数本でしょうか。常に何本かのプロジェクトが同時進行しています。
それはお忙しいですね。牧野さんは基本的には在宅での作業なんですよね?
以前はゲーム会社で働いていたんですが、その後はずっとフリーで在宅業務をしています。在宅でやっていると、自分で仕事を進めている分、スケジュール管理は1番難しいです。体調管理にも気を使いますね。私だけが生活する分には好きなようにしていればいいんですが、家族のことや歳をとった後のことを考えると頑張らないと。
アニメやゲームで人を楽しませる牧野さんの発想がどのようにして生み出されるのか教えてください。
日々、幼稚というか子どもっぽいことを考え続けています(笑)。電車の中でも窓の外を見ながら、あの山から怪獣がガガーッと出て来てドカーンってなったら面白いだろうな、とか。ぼーっとしているのがいい時間になります。あとは、とにかく描くことです。私も描く練習のために、実写の映画を1本、始まりから終りまで観ながら絵にしたりしました。そうすると人の動きのパターンが見えてくるんです。

1本の映画を絵にですか!?クリエイター魂ですね。
好きなことだから努力できるんです。今、私はフェローズさんから業務委託のお仕事をいただいています。絵描きとしてゲームやパチンコ台、スロット台などの仕事にも携わることができて、これが面白いんです。新しいものに挑戦できるのはとてもいい勉強になります。でも、フェローズさんは僕のような人に仕事を回すのは大変だと思いますよ。
それは何故ですか?
こういうクリエイターの仕事紹介の会社って、プログラマーやデザイナーを紹介する案件は多いと思うんですが、アニメーション分野で絵描き向けとなれば、まず仕事の数が少ないはずなんです。そこで、仕事を見つけてくれるっていうのは本当にありがたいです。アニメーションだけではなく、仕事の幅も広がる分、経済的にも助かっています。今後も新しい分野にどんどん挑戦していきたいですね。

今、若い人のなかでゲーム業界を目指す人が増えているそうですが、どう思われますか?
そうですね、逆にゲーム業界で何がやりたいのかが気になります。プログラマーの仕事であれば需要はまだあるでしょうが、デザインの仕事はかなり狭き門だと思います。よっぽど新しい案を持っているとか、ずば抜けて絵が上手い人でないと受け入れてもらえないかもしれません。
その狭き門に入るにはどうしたらいいのでしょうか?
私の若い頃はこの業界に入り込む隙がありました。今の時代の若い人が可哀想なのは、ほとんどのことがやり尽くされてしまっている。ここから新しいものを探すのは難しいでしょうね。奇をてらうのであれば、中途半端にするよりも思いっきり外した方が面白くていい。

この先、どのような人が求められると思いますか?
私は「必殺技」と呼んでいるんですが、誰もやらないようなことを見つけて特技として持っている(=必殺技を持っている)人ですね。
想像力ですよ。誰もやらないことって何だろうと想像して、その隅を見つけること。それを見つけて努力するのが近道です。
私の場合、当時、誰もやっていなかったことは「自然現象」を描くことであり、絵コンテで言えば、打ち合わせの現場で他人の頭の中にあるイメージを把握して絵に起こすという特技を身につけることでした。
とはいえ、人のやらないことってそう簡単に見つけられないですよね・・・。
確かに簡単ではありませんが、自分だけの必殺技を見つけて特技にするために努力をすることが、生きていて面白いところだと思いますよ。
牧野 行洋(マキノ ユキヒロ)
アニメーション会社でアニメ動画・原画制作に携わった後、ゲーム会社でプロデュース制作に携わる。現在はフリーランスで「絵コンテクリエイター」として活躍。これまで手がけたものの中にはガンダムや獣神ライガーなど有名な作品が数多くある。絵コンテだけでなく、得意な「自然現象」の表現を活かした背景やメカデザイン、モンスターデザインなど豊富なキャリアを活かし幅広く活動している。
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